化学工学学問の紹介
どんなに優れた性質・機能をもった製品も、それを製造する設備なしには生産できません。生産量が多くなればなるほど、その製品をどのように製造するかが重要な問題になってきます。十分な検討なしに製造を行えば期待される利益が得られないばかりでなく、製品や副産物が人体や地球環境に大きな害をもたらすかもしれません。
化学製品あるいは化学関連の工業製品を生産する際には、限りある資源・エネルギーを最も有効に利用した生産の方式、つまり、どの原料からどのような反応・プロセス・装置で目的物質を生産すれば良いか、生じた廃棄物をどのようにして無害化し自然界に戻せば良いかなどの検討が必要です。しかも、日本だけでなく世界中の企業と競い合って、良い品を安価に、かつ環境に優しく作ることが必要です。
化学工学は最も効率の良い生産方式の開発、新しいプラントや装置の設計・運転管理に必要となる物理的及び化学的な原理を一つの学問体系にまとめたものとして発展してきました。化学工学の本質は、物質や現象の理解を基礎とし、問題の解決・最適化を行うために”プロセス的思考”を行うことにあります。この”プロセス” という言葉には様々な意味があります。分子の反応も、物質や熱の移動も、これらを行う装置も、それを組み合わせた製造プラントも、さらには生態系や地球環境も皆プロセスであると考えることができます。その中で起こっているミクロ・マクロな現象を理解・制御して目的とする結果を得ることがプロセス的思考です。即ち、分子単体や分子集団の性質・構造・機能を調べ、物質・エネルギー・運動量などの移動と共に物質変換過程を追跡し、原料・エネルギーから製品・廃棄物までの流れを制御して、要求を満足する材料と健全な地球環境を作り出すための最適なプロセスを構築する、それが化学工学です。
化学工学的な考え方は化学産業に限定されることなく、ほとんどすべての産業分野で活用されています。

化学工学プロフラムの紹介
広島大学の化学工学プログラムでは、物質・エネルギーの輸送・変換プロセスに関する教育を通して、化学工学の基礎及び専門知識を確実に習得した人材を育成することをプログラムの目標としています。具体的には化学プロセスを構築する上で必要となる知識を得るための伝統的な化学工学科目(化学工学量論、流動論、伝熱論、物質移動論、熱力学、反応工学、粉体工学など)を骨格としたカリキュラムを踏襲し、化学プロセスの開発・設計に必要な科目が全て用意されています。併せて、環境に配慮した化学プロセスや環境を保全するための化学プロセスを構築する上で必要となる知識を網羅した講義科目(環境化学基礎論、再資源化学、グリーンテクノロジーなど)を履修することにより、環境保全・浄化や資源・エネルギーの開発などに関する幅広い基礎知識と、高度な専門知識・技術を調和よく身につけ、知識を応用する能力を養うための実験・実習を行います。
化学工学の考え方は、グローバルな視野で、原料、エネルギー、安全、資源、さらには、経済、社会などを統合的に考慮しなければならない環境問題の解決に必要不可欠なツールとなっています。したがって、化学工学的見地から環境問題にアプローチできる人材育成を行うことも、化学工学プログラムの目標の一つです。
卒業生の多くは、博士課程前期及び後期に進学し、より高度な専門技術及び研究能力を習得しています。また、化学・繊維・医薬などの化学系企業をはじめ、電気・金属・機械系企業、環境関連企業など、あらゆる産業分野に就職し、化学工学の知識を武器として国内外で大いに活躍しています。
沿革
当専攻の学部教育を担う化学工学講座の前身は化学工学科であり、1959年4月に全国で8番目の化学工学系学科として広島大学工学部に設立されました。その後、1976年4月に類(系)構想に基づいて広島大学の学部改組がなされ、化学工学講座、応用化学講座、発酵工学講座からなる広島大学工学部第三類(化学系)が設立され、現在、この三つの講座が協力して工学部化学系の教育を行っています。
一方で、大学院組織は、1963 年4月に化学工学専攻を含む9専攻によって工学研究科(修士課程)が設置されたのが始まりです。1977年4月に大学院工学研究科博士課程前期、博士課程後期が設置され、それを受け持つ7専攻に改組されました。化学工学講座は第一類(機械系)の原動機工学講座とともに移動現象工学専攻を構成しました。2001年4月に大学院講座化によって7専攻から5専攻に改組され、そのうち化学工学講座は、応用化学講座、グリーンケミストリー講座(大学院専任講座)とともに物質化学システム専攻を構成しました。さらに、2010年4月の大学院改組により物質化学システム専攻が化学工学専攻と応用化学専攻に分離独立しました。2020年4月の大学院改組により工学研究科は先進理工系科学研究科に統合され、化学工学専攻は化学工学プログラムと名称が変更されました。
年月 | 概要 |
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1959年4月 | 全国で8番目の化学工学系学科として広島大学工学部に設立 |
1976年4月 | 化学工学講座、応用化学講座、発酵工学講座からなる広島大学工学部第三類(化学系)が設立 |
現在に至る |
年月 | 概要 |
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1963年4月 | 工学研究科(修士課程)が設置, 化学工学専攻を含む9専攻 |
1977年4月 | 大学院工学研究科博士課程前期・博士課程後期が設置, 7専攻に改組. 化学工学講座は第一類(機械系)の原動機工学講座とともに移動現象工学専攻を構成 |
2001年4月 | 大学院講座化によって7専攻から5専攻に改組.化学工学講座は、応用化学講座、グリーンケミストリー講座(大学院専任講座)とともに物質化学システム専攻を構成 |
2010年4月 | 物質化学システム専攻が化学工学専攻と応用化学専攻に分離独立 |
2020年4月 | 大学院改組により工学研究科は先進理工系科学研究科に統合、化学工学専攻は化学工学プログラムと名称が変更 |
現在に至る |

